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大阪高等裁判所 昭和41年(て)108号 決定

被告人 安田信明

決  定 〈被告人氏名略〉

被告人安田信明に対する大阪簡易裁判所に係属中の昭和三九年(ろ)第二三四六号、同年(ろ)第二六三八号各窃盗被告事件と神戸簡易裁判所に係属中の同四〇年(ろ)第九五二号、同四一年(ろ)第一三六号各窃盗被告事件とにつき、申立人から審判の併合請求があつたので、当裁判所は検察官の意見をきき次のとおり決定する。

主文

本件請求を却下する。

理由

本件請求の要旨は、被告人に対しては冒頭記載の各関連窃盗被告事件が大阪簡易裁判所と神戸簡易裁判所に係属しているところ、神戸簡易裁判所は弁護人の請求により昭和四一年一月二五日大阪簡易裁判所に係属中の右窃盗被告事件を神戸簡易裁判所の右窃盗被告事件に併合して審判をする旨の決定したのに対し、大阪簡易裁判所は、弁護人からなされた同裁判所に係属中の右被告事件を神戸簡易裁判所の右被告事件に併合して審判されたい旨の請求を同四一年三月一〇日却下したため、右各裁判所の決定が一致しなくなつたから、大阪簡易裁判所に係属中の右被告事件を神戸簡易裁判所に係属中の右被告事件に審判の併合をされたい、というのである。

よつて案ずるに、本件記録によると、右申立人主張の事実は全てこれを肯認することができる。しかしながら、関連事件は必ずしも一の裁判所で併合して審判しなければならないものではなく、事件の内容及び訴訟の経過、訴訟関係人の利害等諸般の事情を考慮して決すべきものであるところ、本件記録によると、被告人が昭和三九年一〇月六日及び同年一一月五日大阪簡易裁判所に起訴された事件の内容は、被告人が外数名の者と共謀のうえ同三九年一月八日頃から同年六月二五日頃までの間前後四回に亘り自動車を窃取したというものであり、共犯者及び故買者等九名が同時に起訴されていること、一方神戸簡易裁判所に対する被告人の起訴は同四〇年一二月一四日と同四一年二月四日であり、その内容は、被告人が外数名の者と共謀のうえ同三九年五月二六日頃に一回と同四〇年一月一三日頃から同四〇年一一月三〇日頃までの間前後八回に亘り自動車等を窃取したというものであり、共犯者等六名が同時に起訴されていること、大阪簡易裁判所は同三九年一二月三日審理を終えて結審し、判決宣告期日を同年一二月二二日と指定したが、その後右期日を変更し、改めて同四一年三月二二日と指定したこと、神戸簡易裁判所においては、同裁判所に係属中の窃盗被告事件二件につき同四一年二月八日第一回公判が開かれただけでその後は何等の審理もなされていない状況であることが認められる。右の如く各裁判所に係属中の被告事件は何れも窃盗事件であり、大阪簡易裁判所に係属中の被告人に対する被告事件を分離して神戸簡易裁判所で併合審判した場合に、あるいは被告人に有利な結果をもたらすこともあり得ないわけではないが、大阪簡易裁判所における判決宣告期日は目前に迫つている状況であるから、今更被告人に対する事件を他の相被告人の事件から分離再開して神戸簡易裁判所に送付すると却つて訴訟が遅延し複雑化するのみならず、神戸簡易裁判所に係属中の被告事件は、被告人が大阪簡易裁判所で保釈を許された後の犯行であることを考慮すると、審判を併合しないことが不当であるとは到底考えることができないから、現に係属中の各別の裁判所においてそれぞれ審理すべきであると認め主文のとおり決定する。(昭和三二年七月四日第一小法廷決定、刑集一一巻七号一八〇七頁参照)

(裁判官 笠松義資 中田勝三 荒石利雄)

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